● チューニングの基本
ドラムの場合その音に倍音成分を多く含むため純粋なトーン(音程)を感じるようには調律できません。通常では両面張りがポピュラーであり、表裏の共鳴により打ち鳴らした時の音はさらに複雑となります。またドラムではピアノやギターのように音叉を使うチューニングはごく希で、普通は耳を頼って感覚で決めていきます。
■ ファンダメンタルテンション
ヘッドを張るときには円周上の各ボルトテンションがすべて均一になるようにします。ヘッドが最も素直な鳴りを生むための必須項目です。当サイトではこの均一な張り状態の音をファンダメンタルテンションと勝手に名付けてみました。ヘッド上のほぼ中央部にはスウィートスポットと呼ばれる最も美味しい鳴りが得られる小さな円状のヒットエリアが形成されています。各テンションのバランスが崩れているとスウィートスポットの位置や大きさ、形が変化するので演奏に及ぼす影響は大です。当然鳴りも悪くなります。またスウィートスポットの位置をチェックしながらチューニングの微調整をしたりします。
上級オプション編のチューニング法としてワザと一部のボルトのみを過剰に緩めるなどの変則がありますが、これは演奏中にボルトが抜けてしまうデメリットも多く比較的最終手段です。基本はまずすべて均一に張ることから始まります。
■ 表ヘッドと裏ヘッド
基本中の基本は両面をほぼ均等に張ります。このことによりヘッドどうしのナチュラルな共鳴を得る訳です。両ヘッドが全く同じトーンであればほぼ完全な共鳴を起こしてナチュラルな感じを生みます。
これでは個性や色が乏しくなってしまうので次のステップとしてこの状態を崩す作業が行われますが、肝は共鳴を得ることですのでオクターブユニゾン(8度)、5th、4thなどの音程差を目指してチューニングします。実際は耳だけで共鳴ポイントを探すことになるのであまり細かいことは考えず行うのですが結果として音楽理論に沿う状態であることをおぼえておくとよいでしょう。しかしヘッドを張るときにはまず両面均等を創るのが大原則です。ちなみにこちらはファンダメンタルトーンというきちんとした呼び方があるようです。
■ 楽器自身の持つ共鳴周波数
金属パーツを含めた楽器全体やドラムシェルはそれぞれ固有の共鳴周波数(=音程)を持ちます。共鳴振動数ともいいますが意味は同じです。物理を専攻された方なら説明不要でしょう。楽器が美味しいポイントで鳴るにはシェル自体も共鳴することが重要になります。所謂「抜けた音」と形容される時が、ヘッドが生む音程とシェルがうまく共鳴している状態です。(表裏共鳴の場合も音は抜けますがここではとりあえず打面ヘッドのみと考えて下さい。)
作業の実際はヘッドの張りを徐々に変えていった時に自分に向かって音がスッ飛んでくるポイントがあります。この時よく注意して聴くと胴鳴りも加味されて芯のあるパワー感が生まれているのがわかるでしょう。まずこれを探すのが張るときの第一の作業となります。
また楽器には個別に持つ「美味しい音程の帯域」なるものがあって低音程の限界と高音程の限界が存在します。これをチューニングレンジと呼んだりします。基本的にはサイズが小さいほど高音域にシフトする傾向ですが、これは材質、口径、シェル厚、胴の深さなどドラムを形成する全ての要素が絡んできます。まあ通常極端な張り具合にしなければこれをはずしてしまうことはありませんが、小口径深胴やピッコロSDなどを扱うときに必要ですので頭の隅に入れておいて下さい。このへんは実践による経験が大なのでいろいろ試してみて各楽器の鳴りを巧く引き出してあげましょう。
● 実際のチューニング方法
私の実際のチューニング方法を紹介しましょう。その前にまず初心者の方は美しくチューニングされた生ドラムの各パーツの音を是非体験しておいて下さい。練習スタジオ常設セットのチューンは大抵ボロボロなので、生が聞こえる小さいハコでの一流のライブを観に行くとか凄腕ドラマーの知人に頼むとかしてみましょう。デジタル音源やCDではやはり不足ですからこれだけは生音を耳に焼き付けておくのが望ましいと思います。
■ ヘッド交換の準備
- ・ 古いヘッドをはずす
チューニングキーを用いてテンションボルトを緩め旧ヘッドをはずします。このときボルト1本を一気に抜くのではなく各ボルトを徐々に緩めていきます。ラグやエッジに負担を掛けないようにする訳です。以下、すべての行程でつねに楽器への愛情を忘れないようにしましょう。
- ・ 新しいヘッドの処理
新ヘッド装着時のフィットを良くするためヘッド上のエッジに接触させる円周部分を手で軽くモミモミします。この箇所はヘッド製造時に接着剤がはみ出して付着している時もあるのでそれをほぐして取り除く意味もあります。揉んだら柔らかい布などで拭いておきます。同時にエッジ側も布で軽く拭き、シェル内やリムも掃除します。エッジにグリスを塗る場合もあるようですが私はシェルへの影響が恐ろしくてやっていません。
■ ヘッドを張る
- ・ ヘッドを装着する
エッジにヘッドを引っかけるように乗せます。斜めになったりしないよう十分注意して下さい。さらにこの上から挟み込むようにリムを乗せます。この状態でボルト穴に対し位置が偏っていないか、不自然に挟み込んでいないかをシビアにチェックします。ここでの調整がチューニング前段階の肝ともいえます。
- ・ ボルトを装着する
テンションボルトをすべて穴にはめます。ワッシャの向きがある場合にはこれも注意します。そして、ヘッドにはまだテンションが掛からないようなギリギリの位置まで手でネジ込みます。ここでもリムとヘッドの偏りには気を付けます。
- ・ 粗で締める
とりあえずファンダメンタルテンションを創るためとヘッドをなじます為に均一に締めてゆきます。例を示すためにここでは打面を時計盤に見立ててみましょう。数字の位置に対応し、ボルトもとりあえず12本あると仮定します。
まず最初のうちはボルトを半回転ずつ、12時 ⇒ 6 ⇒ 9 ⇒ 3 、⇒11 ⇒ 5 ⇒ 8 ⇒ 2 、⇒ 10 ⇒ 4 ⇒ 7 ⇒ 1 、のように対角線を意識した順番で締めていきます。これを3,4回繰り返した時点で一度ヘッド中心を手で押さえテンションを掛けて馴染ませます。以後これを繰り返していきますがヘッドがかなり締まってきたら一回の締め回転を1/4回転、1/8回転と徐々に小さくします。
ドラムのサイズに見合う音程に近づいてきた予感がしたらヘッド上の各ボルト近辺やスウィートスポットなどを叩いて音をチェックします。私は指やチューニングキーで叩きますがスティックでも良いでしょう。このときはとりあえず均等に張るのとヘッドの馴染ませが目的ですので最終音程を決定するための調整はしません。ファンダメンタルテンションをキープしたまま最終完成予定の音程よりさらに高く締めてゆきます。「これは結構高いかな」と思える感じで締まったらそのまままる1日放置します。演奏直前で無理なときはヘッドに軽く体重をかけてムニムニして馴染ませます。また、裏面も同様にしておきます。
■ チューニングする
- ・ 打面ヘッドの調整
まず音程を決めていきます。このとき裏ヘッドは鳴らないよう手などでミュート(※ここで言うミュートとは単純に音を止めることを意味し、音作りのミュートとは違います。)しておきましょう。まず最初には好みの音程を優先させます。そしてだいたい目的の音になったらその近辺で音抜けするポイントを探します。極端なハイピッチやローピッチにする場合はチューニングレンジを気にしつつ行いましょう。このときもファンダメンタルテンションは保ったまま緩締は対角線調整の基本を忘れずに。音チェックはスティックヒットも交え、ヘッド各部をまんべんなく叩いてスウィートスポットの位置をよく確認しましょう。
裏ヘッドを張ったままさらにそれをミュートした状態で胴鳴りポイントを探るのは難しいと思います。本来は裏をはずした状態で行うのがベストですが、作業手順的に面倒くさいので私は張ったままやっています。耳が慣れてくれば裏を張ったままでもだんだん「抜ける」感覚がわかってくると思います。自分のドラムを所持している幸運な方は最初は裏をはずしてチャレンジしてみましょう。ただし後から裏を張るとリムやヘッド、ボルトの重量が加算されるのでそのぶんの抜けポイント微調整が新たに必要となります。
- ・ 裏ヘッドの調整
まず打面側とまったく同じになるようにします。その後ここで初めて両面同時に鳴らしてみます。表が音抜けポイントにうまく調整されていれば問題なく美味しいトーンを得られるはずです。微調整して音に満足出来たらとりあえず完成。またタムの場合はホルダーに装着した時点で鳴りが結構変わるのでさらに胴鳴りポイント修正などの対応が必要になります。(リムズタイプはさすがに皆無ですがパールの太パイプ型は特に顕著です。)
私の場合は大概ここで終了ですが、表裏ずらしを解説してみましょう。打面そのままで裏ヘッドだけを弄ればリバウンドの感触はそのままに全体ピッチが変化します。裏面を締めすぎるとピッチ上昇とともに音はタイト感を増し、緩めすぎるとピッチは下がりややおかしな揺れのある音(ベンド効果)も現れます。表裏のバランスしだいで全体ピッチはキープのまま好みのヘッドリバウンドを得ることも出来ます。実際にいろいろ試して自分好みの音を追求してみるといいでしょう。ただし鳴りのツボは何時も「共鳴」であることを忘れないように。
【2006/Sep 追記】:裏を4度上げるいわゆる「表裏4度チューニング(※サイト「深大寺しんぷるてくのろじー研究所」の方々が興味深い考察をされています。)」はタイト感を増したい時に有効です。絶対的な音量感や追従性では表裏均等に譲るもののRec.時とかには威力を発揮すると思います。ヘッドの振動(膜面振動)では弦などにみられる単純な自然倍音列が発生せず一筋縄にはいかないことを憶えておきましょう。
- ・ 各ボルトの微調整:
表裏ずらしと同様のコンセプトでファンダメンタルテンションを敢えて崩す色の付け方があります。微妙にスウィートスポットをずらすことでミュート効果やベンド効果に影響を与えられますが、打面側ではそれこそスウィートスポットが移動するためプレイに影響が出ます。通常はタムの裏面などで行えば良いでしょう。ただやりすぎると折角の鳴りが損なわれるので注意したいところです。私の場合はボルト緩みを嫌うのとダイナミクス追従性を重視したいが為にこの処理は滅多にやりません。
■ 各パーツごとの注意点とセット全体バランス
● スネアドラム
スネアのチューニングはまずスナッピーoffの状態で行います。打面側は同口径のタム類に比べかなりのハイピッチにするのが一般的です。あくまで一例ではありますが私は8インチタムの美味しいポイントとほぼ同じかそれよりやや高いピッチにしています。
よく誤解されているのは完成音でローピッチを求めるあまり打面ヘッド単体をもローピッチにしすぎてしまうことです。基本的にスネアの重低音は胴鳴りにより引き出すと考えられます。SD自体もともとサイズが小さい割に重い、また良いスナッピーサウンドを得るためのチューニングレンジの問題から、あまりのローピッチでは鳴りが期待できないのはお判りだと思います。ヘッドのピッチそのものよりサウンド完成時の全体共鳴を得るほうにマトを絞りましょう。また一見逆に思えますが浅胴ピッコロではややローピッチ、深胴ではハイピッチが美味しい鳴りを得られます。
スネアの裏ヘッド=スネアサイドは特殊なチューニングをします。この専用ヘッドはスナッピーが良く反応するよう極薄に造られていて応じてピッチも相当高くします。だいたい打面に対し音程感で1〜2オクターブ程度は高くしますが、このへんは共鳴ポイントや好みで結構幅があります。「音程感」と敢えて書いたのは、スネアには多数のパーツが取り付けられているためかシングルヘッドの状態でもあやしい倍音がかなり出ています。特にスネアサイドは聴く人によってはハッキリとしたトーンが感じられない場合があるでしょう。数値的な音程差より「打面に比べ裏はかなりのハイピッチ」といった感じで認識しておけば良いと思います。
裏のチューニング時にはスナッピーを本体から取り外して行うのが理想ですがそれこそ手間極まるのでスナッピースイッチはオフで取り外すことなく作業します。裏ヘッド交換までする時には取り外さなければならないので自動的に理想環境でできますが最終調整段階ではやはり装着して行います。ちなみに普通に使っていれば寿命で裏ヘッドを交換する機会は滅多にありません。音色確認には正常天地向きで底側から叩くとか、スナッピーを持ち上げておくとかしてスナッピーが触れないように対処します。ヘッドのど真ん中はチェック不能なのでスウィートスポット位置はカンで判断し切り抜けます。音抜けポイント確認だけなら表を叩いてチェックするのもありです。また裏ヘッドは極薄ですからスティックで強く叩くとすぐボコボコになるので注意して下さい。
- ※スナッピー
- スナッピーには大別して内面当たりと全面当たりの二種があります。内面当たりはスナッピー本体がヘッド口径よりも小さくヘッドに全体がベッタリと張り付くようにセットします。ストレイナー機構もシンプルで調整も楽です。いっぽう全面当たりは長いスナッピーがヘッドに橋渡すようにセットされ、当たりのテンションの微調整が可能ですがストレイナーもごつく複雑な機構を持つためやや調整は難しくストレイナーが重いぶん音色にも影響を与えます。スナッピーの本数や材質にも幾つか種類がありますが私は研究不足のためすべての特徴は把握しきれておりませんのでこのへんの言及は避けておきます。各自研究してみて下さい。スナッピーのセッティングはねじれや傾きが無いよう、さらに左右の偏りが無いよう中央部に行儀良くセットしましょう。これが不完全だと反応や音色にかなり悪影響を与えます。
裏ヘッドを表と共鳴するポイントにチューンしてだいたいの音が決まったら、さらに今度はスナッピーonにしてスナッピー自体のテンションをストレイナー部の回転つまみで弄りつつヘッドを微調整していきます。スナッピーを大幅に緩締するときや抜け確認では適宜スナッピースイッチon、offを繰り返して下さい。ここからは打面ヒットで音チェックしてスネアの全体サウンド完成を目指します。スナッピーを締めすぎると鳴りが妨げられ音がまるで抜けなくなるので注意です。
スネアサイド、スナッピー近辺のエッジ部ではリムがエッジにテンションをかけていないため、ファンダメンタルテンションを得るにはスナッピーそばの4本のボルトのみ若干きつくする必要もあります。またこの4本の締め具合でスナッピーの反応も変化させられます。当然単純に締めれば反応は良くなりますが新たな音抜けポイントを模索する羽目にもなります。これらの兼ね合いがなかなか複雑で欲しい音を得るにはかなりの熟練を要することでしょう。とにかく経験あるのみです。
● ベースドラム
まず、現在おもにRock系などでポピュラーと思われる手法を紹介しましょう。最初のボルトチューンはノーミュート(ミュート処理一般は後述)な状態で打面側をハイピッチ程ではないが張り気味に、表はベロベロに。そうしてその後畳んだ毛布などのミュート材を打面ヘッド裏に軽く接触させるようにシェル内部にいれ積極的なミュートによる音作りを施します。ときにはこの毛布を固定するのに砂袋等のオモリや金属のウェイトを使用したりもします。さらに加えて打面ミュートはタム同様の手法や市販の打面装着マフラーなど多種多様ですが必要に応じて工夫して下さい。これにも決まりは全くありません。
表ヘッドの穴はもともと録音マイク挿入目的でしたが現在はミュートの一環として用いられます。当然穴が大きいほどシングルヘッドに近づき音は共鳴の少ない余韻の短いものになってゆきます。穴は自分で開けても構いませんが楽器店やメーカーに依頼すると綺麗に仕上がってきますので購入時に頼むと良いでしょう。またオーソドックスJazz系ではタム同様にチューンします。
BDのチューニングは実は非常に奥深いものがあります。上述のポピュラーな方法では高めにチューンしてハードなミュートで高音倍音成分をいっきに殺しているため、比較的簡単に上質で締まった音を得られ時間的制約がある場合好都合です。デメリットは胴鳴りが制限される、アタック音も乏しい、音量の安定感はあるが反面ダイナミクスや表情が付けづらい、などです。このためアタック補完のためウッドビーターやインパクトパッドなどが流行していますがこれでは柔らかいプレイが犠牲になります。こういったチューニングは初級者には有利なものの、腕が上がるに従い様々な不満が露呈してくると思います。
Webmaster独自のチューニングを紹介しましょう。BDは近年メジャーな厚胴過ぎないものの場合で、口径も18〜24でこれを試したことがあります。もしタムホルダーがBDから伸びている場合は後の手間省略のためタムをすべて装着してから行います。チューニングするあいだ適宜タム類共鳴防止ミュートは行って下さい。ヘッドは一度強く張りすでに馴染ませたものとします。
まず打面は殆どエッジに引っかけるだけに近い状態にしてこの近辺で音抜けポイントを探ります。ヘッドに皺が出来るギリギリ限界のあたりです。個体差にもよりますがBDのチューニングレンジは以外と低いのでこのあたりも胴鳴りを引き出せるポイントです。アタックも犠牲にしたくないので極力ゆるいテンションでの抜けを目指します。オモテは穴無しの完全両面張りにしこちらも打面同様のごく緩いテンションにします。そして音抜けとミュート具合をボルトチューニングのみで非常に微妙な範囲で探っていきます。このときスウィートスポットの動きも非常に鋭敏なので注意です。私は指での音確認に加えてスティック柄端部も併用します。私はオモテを打面よりさらに緩くしますがここらへんは余韻長さの好みで決めれば良いでしょう。アタックと胴鳴りを得られてさえいればあとは気分次第か音の好みです。原則としてミュートは一切しません。どうしてもまとまりの悪いときは薄めの毛布を内部からごく軽く接触させズレ防止にはガムテープを使用します。
ここまでつい大袈裟に解説してしまいましたが、これはごくごく基本のチューニングで低音寄りにしただけともいえます。しかしこの低音域では油断するとすぐ音が暴れ始めるのでかなりシビアな調整が要求されます。BDに限らず大口径の低音チューンはかなり難しいので気合を入れましょう。いちどドツボに嵌ると抜け出そうとアガくより一からやり直すほうが早かったりもします。
これでヘッドがクリアアンバサダーの場合は殆ど加工の必要がないようなコンテンポラリーサウンドが得られると思います。コーテッドアンバサダーではやや倍音は多いが締まった感じがプラスされます。フェルトビーターで強く踏めばアタック胴鳴り両立のFunk系サウンドになり、表現できるダイナミクスの幅も広くなっているはずです。ピンストライプ、CS、エンペラー系などではやはり追従性が甘くヘッドのキャラの方が前面に出てしまうのでこのチューニング法との相性はあまり良くないかも知れません。(それはそれでドスが効いていてなかなかに使えるサウンドですが…)
このチューンの欠点は、演奏中のボルト緩みに注意が必要、演奏にショットコントロールの高スキルが要求される、ツインペダル使用時に左右の音色に結構差が出る(じつはそれがミソですが)ことです。メリットは小口径でもかなりの重低音が得られます。オープン、押し付けの奏法差も当然ハッキリします。ついでにFTで超重低音が欲しいときにもこのチューニングが適用できてしまいます。じつはこの手法は大学時代サークル連中と研究していたものがベースで特に参考にしたものは無いのですが、出音そのものはサイモンフィリップスのBDサウンドに結構近いと思います。まあ一例としてはこんな感じですので皆さんもいろいろと研究してみることを強くお薦めします。
最後に補足ですが、BDとSDの干渉によるSDスナッピーのノイズ「バズ音(詳細後述)」には注意が必要です。通常スナッピーはonなので演奏中聴かれるBD音は常にバズと一体化して聞こえています。つまり我々がBDとして認識する音はこの一体化した音なのです。従ってチューニング時にはまずスナッピーoffでBDをチューンした後、新たにスナッピーonにしてみてSDと干渉させた状態の音をチェックする必要があります。
● セット全体
セット中各パーツのおおまかな音程差ですが、FTとTTでは低い方からRoot⇒3rd⇒5th⇒7thやペンタトニック、4th間隔などありふれたイメージで音程を決める場合が多いようです。当然ドラムサウンドには倍音も多く干渉もありますから、あくまでイメージです。音程差は完全に好みで良いでしょう。干渉についてはバズとともに後述します。
スナッピーoff状態のSDは音色もピッチもティンバレスの音に近く、12,13TTの基本セット中では最も高いピッチとなります。またBDは最も低いですが音的に特殊なため他との音程差をあまり気にする必要はないでしょう。ごくおおまかにはこんなところですが、重ねて全くの決まりはないことを強調しておきます。自分で聴いてみて美しいと思える音並びがそのプレイヤーの脳内にある音をもっとも表現しやすい状態のはずですから。
● 一般的なミュート処理について
ヘッドなどの倍音を押さえることで音色をコントロールする細工を総称してミュートと呼びます。正確には「ミュート(=音を消す)効果」というべきですが、細かいことはまあ置いておきましょう。具体的には締まった感じの音と余韻の少ない音を創り出す作業といえます。ガムテープ使用がポピュラーです。もっとも私は完全ノーミュート派ではありますが。
■ ガムテープミュート
ヘッドに張り付けたり、そこにティッシュを挟んだり方法は様々です。張る場所も大きさもどの楽器に張るかも人それぞれ。主にチューニングのみではコントロール不能になってしまった余計な倍音をカットするために行われます。当然ながら張れば張るほど音は余韻のない止まった感じになります。
私のお薦めは4cm位のガムテープを裏向けにして直径8mm程度に丸めた筒状のものをリムから2〜3cm離れたヘッド上にポンと置く(張る)ヤツです。なかなか可愛いミュートですが音は劇的に変わるのでおためしあれ。ちなみにドラム廻りで使用するガムテープは布製限定です。紙製は強力にくっついてしまい後でえらい目に遭います。
■ リングミュート
大概はSDでヘッドと同口径の幅2〜3cmのフィルム製リングをただ「乗せるだけ」で使用します。比較的手軽にまとまった音が得られますがその分表現力は低下します。しかし歌モノ系あたりでデッドなサウンドが要求された場合などは数あるミュート法のなかでもかなり使える方法といえるでしょう。これは要らなくなった古ヘッドのリサイクル先として最も有効な活用法でもあります。製品として市販されていますが自作してしまいましょう。きれいなリング状でなくとも構いません。切れ端を乗せて一点をガムで止めるだけでもそれなりの効果があります。
ちょっとイレギュラーですが、古ヘッドを適宜ある程度の大きさに切ってBD打面にぶら下げるようにガムで一点止めする「マフラーとリングミュートのあいのこ型」ミュート法もあります。どうせリサイクルですので「使わな損、損」。各自いろんな方法を試してみましょう。
■ 内蔵ミュート
最近では殆ど見かけませんがシェル内部にミュート用フェルトマフラーを内蔵したモデルもあります。ヘッドへのあたり具合はシェル外側のダイアルで調整します。
● ドラムヘッドの種類
ヘッドも音色を決定する重要な要素です。おおまかに解説します。
- ・ 厚さ
メーカー大手Remo社ではディプロマット(薄)、アンバサダー(標準)、エンペラー(厚)のラインナップがあります。ごくごく僅かな違いですが厚いほどごつい音で音量増になり薄いと音量減でテンテンした感じになります。ちなみにエンペラーシリーズはディプロマット2枚重ねで厚みを確保しているのでミュート効果も若干加味されます。厚みは音色よりむしろ耐久性の違いで選択する部分が大でしょう。一般にはやはり癖のないアンバサダータイプの使用が圧倒的に多くみられます。スネアの裏ヘッド用にはその名もスネアサイドという極薄の専用製品モデルが用意されています。
- ・ 材質
プラスチックが主流で本革にやや近いものにナイロンがあります。本革をイメージした製品はやや高価なのが難点です。ほとんどの場合はプラスチック製が広く使用されていてラインナップやコストパフォーマンスの点からもこれ以外に選択肢はまずないのが実状ですが、特に欠点も見当たらないので現在主流のドラムサウンドを得るにはプラスチック製で必要十分でしょう。
- ・ クリアタイプ
色が透明やブラックの表面がつるつるのタイプです。倍音の少ないシンプルな感じのキャラを持つもっとも基本的なモデルですが当然ブラシのスウィープ奏法はできません。
- ・ コーテッド
ブラシワークに対応するためのザラついた表面を持つ白色のヘッドです。このタイプは普通のクリアヘッドにザラつき形成の為の材料を吹き付けて製造されているようで、その吹き付けの厚みが音色のキャラクターに影響を与えます。スネアの打面使用では最も標準的なヘッドといえるでしょう。クリアに比べやや複雑な倍音構成を持つためチューニングは若干難しくなり音色も高音成分が加わった明るい印象となります。コーティング(吹き付け)の厚さにも各社微妙に違いがあるようですがさすがにここまでの要因から音色の違いは体感したことがありません。Remo、Aquarianは厚めEvans、Ludwigは薄めとの記事をみかけた事があり、たしかに実際Evansは薄かったような気がします。
- ・ 二枚重ね
Remo社ピンストライプ、Evans社ハイドローリックなどがあります。ハードなミュート効果を得るため2枚重ね仕様にしてあります。ピンストライプは口径よりひとまわり小さな90%程度の面積が2枚重ね、ハイドローリックは全面2枚重ねで隙間に少量のオイルが封入されています。どれもすでにミュートが施された倍音の少ないデッドな音色を持っていて、そのぶんチューニングによる色づけやプレイ時の表現の幅は抑えられます。
- ・ ドット付き
ヘッド中央に直径半分程度の円形2重部分があるタイプです。Remo社のものはCS(コントロールサウンド)という呼称があります。こちらも2枚重ねの一種ですがあいだに隙間は無く密着して張り付けられているようです。キャラクターはややクリアに近くなりますがやはりミュートされた音です。アタックが強調されるといわれているものの私の経験ではチューニングや組み合わせ次第でかなり変わります。軽いミュートが施されたヘッドと考えておけばよいでしょう。TAMA社オクタバンやPearl社キャノンタムのような小口径超深胴タムにはこのヘッドが向くようです。ドット部がブラックやミラーなどの製品ラインナップが用意されています。
その他リングミュート既装着タイプやCSとピンストライプの複合タイプなど様々な種類がありますが、やはりミュートサウンドのキャラクターの違いを追求したラインナップが多いようです。スネアサイド以外はどのヘッドをどのドラムに使用するかや表用裏用などの区別はありません。単純に口径サイズのみのインチ数で区別します。BDオモテの穴開きヘッドはノーマルにただ穴を開けただけのものですがメーカーラインナップにより穴あり専用モデルが用意されている場合もあります。
● Webmasterの私的見解(バズ、干渉他)
チューニングで比較的蔑視されることに各パーツどうしの共鳴があります。具体的には、たとえばFTを鳴らしたときに別のTTが同時に鳴ってしまう、といった現象です。音叉どうしが共鳴するのと同様の理屈ですが、ドラムサウンドは単体でさえ倍音を多く発生させる上にまださらに共振? ということで、コトは単純でないのがおわかりでしょう。これをベストな鳴りを保ったまま解消するのは容易ではありません。というより私には絶対に無理です。必ず鳴りが犠牲になるパーツがでてきます。
またスナッピーonの状態で他パーツと干渉し共鳴を起こした時の「ズ」というスネアのノイズ音を「バズ音」と呼びますが、これを軽減する方向でチューニングを調整すべきという意見があります。
私はドラムは「セットの状態でひとつの楽器」という考え方のため、このへんは割と気にしていないのが現状です。タム類どうしも干渉しまくったりさせています。特にBDがバズと常に一体で鳴るのはどんなに巧いチューニングをしたところでまず避けられず、それでひとつの音色をかたち作っているためよしとしたもんです。またGtやPfなど他楽器との干渉は、ステージ内ナカオト音量を下げてもらい、曲中ドラムがタセットな部分ではスナッピーoffで対処しています。
しかし他楽器との干渉も完全に無くすのは無理です。これも演奏場所ごとにそういうもんだと思って諦めています。ドラムが長時間のタセット時、たとえばPfSoloメインのバラードなどでは他楽器との干渉バズを逆に利用したりできます。演奏の盛り上がり部であえて乱入し、シンバルロールクレシェンドと併用でスナッピーonにしたりして色を変化させられます。オンオフの操作タイミングもドラマーのセンスの見せどころです。
私のチューニングの特徴は、すべてノーミュート、音色はナチュラル重視、SDハイピッチ、Tom類ローピッチで音程差大、BD前述のとおり、です。ヘッドはすべてアンバサダーのコーテッドもしくはクリアのノーマルが好みです。不要な倍音などはミュートではなく極力ボルトチューニングのみで解消します。とにかく「鳴って頂く」ことを最優先にチューンしています。
と、非常にカッコつけてしまいましたが、これはあくまで自分の楽器使用でかつ100%自分の自由になる条件下のみの場合です。通常そんな演奏環境は無いに等しく、特に練習スタジオ備え付けやライブハウス常設のセット使用の場合は話が違ってきます。これは時間との戦いですからそれ相応の対応が迫られることになります。まずは当然パーツはセットに装着したままで音抜けポイントへ瞬時にフィットさせることからはじめます。個別の音がだいたい決まれば完成予想をアタマに描きつつ微調整に入ります。この段階での音チェックはSolo系の全体音が分かり易いフレーズを用いパーツ間バランスと抜けの仕上げを全パーツ同時に一気にやってしまいます。ヘッドがへタっている事も多々あり、なんの問題もなく完成するのは希なので最終手段ミュートも活用します。大ホールやレコーディングなどではPA屋さんとも密にディスカッションしてマイク乗りを考えた音づくりをするのも重要になります。
他人に迷惑を掛けないことは気持ちよくパフォーマンスする上ではとても大切です。個人的こだわりのチューニング技術も大事ですが、臨機応変で時間を上手く使えるためのチューニング術も忘れずに磨いておきましょう。
ちなみに自分所有でないセットを借りたり弄る時にはたとえ練習スタジオ常設といえども持ち主に一声掛けるのが礼儀です。まあ練習スタジオに限ってはハナから弄られることがわかっているので普通は大丈夫ですが、楽器をお借りしている状態であることをアタマに入れておきましょう。自分の楽器使用は本来大前提なものの実際には小規模のショーケースタイプのライブなどセット入れ替えが不可能ですから現実的ではありません。アマチュアレベルでは常設セット使用がほとんどのはずです。またセッションなどで飛び入りさせていただく場合は椅子の高さといえども許可無く変えてはいけません。
演奏とは即ち会話であり自分を活かすには相手を尊重してこそ。まず他人への思いやりから始まることをつねに忘れないようにしたいものです。