● ごく基本的なセッティング方法
パーツがあるべきだいたいの位置はメーカーのカタログや雑誌などによく掲載されているプロドラマーのセッティング写真などを参考にすればわかると思います。最初に断っておきますが、セッティングにもこれといった決まりはありません。ある程度上達すれば自身の最もやりやすい位置が見えてくるので自由にセットすれば良いでしょう。しかしまったくの初心者の方にとっては指標となる標準的なセッティングの情報が必要だと思います。あくまで標準的な一例としておおまかなセッティング法を紹介しましょう。
■ ドラムスローン(椅子)
これが演奏姿勢の要となるので最もシビアにセットする必要があります。まずペダル類に足を置いてみましょう。股を開く角度は60度前後となります。このときフットペダルがBDに確実にロックされているかもチェックして下さい。足はフットボードいっぱいに置くのではなくボードの中央からやや手前より1/3程度のところに置くのが標準的な踏み位置になります。HHペダルも同様です。
このとき微妙に踵が浮いた状態になるよう、椅子の高さと距離を決定します。膝は直角〜110度ぐらい、腿はほぼ水平になるのがめやすです。上から見たとき、椅子を中心に脚が素直に放射状に伸びるようにしましょう。
椅子の調整機構は製品によりけりですがスクリューで調整するタイプの支柱をウイングボルト(手で回す取っ手付きボルト)でロックするものか、ストレートな支柱をウイングボルトとメモリークランプ(ロッドなどをロックするためのリング)で二重ロックするものが一般的です。後者はチューニングキーが必要な場合があります。座り方は両足の自由を妨げないよう椅子の前半分ぐらいに浅くかけるようにしましょう。
■ ベースドラム 【右足位置】
BDには安定設置のための一対の脚が左右からのびています。斜め前方に向け、表フープが少しだけ浮いた状態になるよう調節して下さい。機種によってチューニングキーが必要になるかもしれません。このとき脚の角度調整部が緩んでいることがあるので確認しましょう。この2つの脚とフットペダル取付部分の3点でBD本体を支えるかたちになります。
脚にはズレ防止のためのスパー(スパイク)が内蔵されている場合があるのでゴムかスパーかの選択が出来ます。ただし演奏会場やスタジオ床に許可無く傷を付けるわけにはいきませんから、マナーを守って選択するようにしましょう。またドラムセッティング専用ゴムマット使用の場合はスパー受け部分に問題なく設置できると思います。
■ スネアドラム 【股のあいだ位置】
スネアはスネアスタンドを用いてセットします。通常スタンド側の3本の受け手状のパーツで下部から挟み込むようにセットされますがこのときガッチリと締め付けないようにして下さい。ここで締め付けてしまうとまるで別の楽器に変わったかと思うほど鳴りが悪くなります。私はほとんどのせているだけの状態でセットしていますが、それでも落ちたり動いたりすることはないのでまず大丈夫です。
高さはスネアの打面が自分のへそ位置からやや下程度になるのが基本で、角度はマッチドグリップ使用の場合は手前に、レギュラーの場合は右方向にごく浅く傾けます。自分との距離はスネアの中心が両膝を結んだ線より10cm程度奥にくるあたりがプレイしやすいと思います。
■ ハイハット 【左足位置】
まずスタンドの脚がきちんと広げられているかを確認しましょう。フットボード下側の二本のはめ込み式ロッドもきちっと定位置にはめられているかチェックしましょう。また各脚やスタンド底部には前方へのズレ防止のためのスパーが備え付けられているときがあります。ゴムとスパーの切り換え式のものや出し入れ式のものがあるので、BD同様、床の状態により適宜選択して下さい。
ボトムシンバルの高さはスネアの上方15〜20cm程度が目安です。ボトムシンバルはスタンドの受け皿のような部分に単に乗せられているのみで固定はされていません。この高さの調整機構はスタンド中央部にあり、ウイングボルトとメモリークランプでの二重ロック使用がほとんどです。HHトップシンバルはクラッチというパーツにフェルトで挟むようにセットされていてこのクラッチをスタンド本体から上方に伸びる細めのロッドに通して締め付け固定します。ロッドはねじ込み式で本体下部奥に接続されているのでこのときまわしてみて緩みがないかどうかも確認しましょう。
HHトップシンバルとボトムシンバルの間隔は2〜3cmといったところです。これはペダルを踏んだときの好みで調整して下さい。また踏み心地を決めるスプリングテンションをダイアルなどで調整できる機種もあります。
HHトップシンバルのクラッチへの固定具合はクラッチのフェルト上部のナットで調整します。ここはきつく締めすぎないよう、ややルーズと思えるぐらいの方が表現力は上がります。(HH Top 裏側になるクラッチ下部ナットは多くの場合たんなる固定用で調整用ではないことに注意。)
またボトム側の受け皿にはボトムシンバルに微妙な角度をつける小さなボルトが付いていますが、わざわざシンバルの噛み合わせを妨げてしまうことはないでしょうから通常あまり必要ない機構です。(まれにフットクローズ音強調やフットクラッシュ多用などの場合に調整するときがあります。しかしそのぶんクローズのチップ音が犠牲になります。) なお噛み合わせズレによるショット音の変化はこの機構を使わなくてもペダルの踏み込み加減で表現可能です。
■ フロアタム 【右手側】
高さはスネアとほぼ同位置、角度も自分方向にスネアと同程度に傾けてセットします。自分からの距離はまったくの好みですが、遠すぎず近すぎずといったところで判断しましょう。FT脚の固定ボルトは横着して雑に扱うと締め付けが中途半端になることが多いのですが、調整時に一度脚を浮かした状態で丁寧にウィングボルトを締めるようにすればガッチリ締めることが出来ます。各脚の向きは美しく放射状に広げ、自分からみて3本の位置が逆三角形となる(最も傾いている側に脚が1本)ように本体をセットすれば安定すると思います。
■ タム類 【前方中央】
まず高さですが、BDが下にあるので極力低くする場合でもタム本体がBDには接触しないようにする必要があります。多くの機種ではBDから伸びたタムホルダーという支柱でセットされていて、高さ調整はBD側にあるタムホルダー固定部で行います。ここもウイングボルトとメモリークランプの二重仕様が一般的です。高さと同時にタムホルダー自身の向きも調整しましょう。
つぎに角度調整ですが、まずタムホルダー自身の機構でおおまかに縦方向の傾きを調整し、その後タム側のタムホルダー固定部で自分とタムの距離、向き、角度の微調整をします。高さの目安は最も大きいタム下部とBDとの距離が4〜5cmになるような位置を基準に残りのタム打面が揃うように、また角度は15〜30度程度でSDよりやや深く手前に傾くようにすればいいでしょう。距離はタムホルダーをタム内部に突っ込みすぎると大概遠すぎとなってしまうので、スネアから一段外周にあるイメージで自分から見た円周上に配置すれば良いと思います。
■ ライドシンバル 【右前上方】
右側タム奥あたりに20〜40度程度の角度をつけてセットします。距離と高さは他のパーツに接触しない範囲でまったくの自由です。手を自然に伸ばした状態で楽にプレイできる位置を見つけて下さい。シンバルのカップ部を無理せずショットできる位置が目安となります。シンバルスタンドはおもにストレートとブーム(腕)付きの二種があって、ともに調整機構はノーマルなウイングボルトかチューニングキー使用です。
上端のシンバル取り付け部はウイングナットが使われます。ここのフェルトはシンバルを締め付けないよう軽く触れている程度のゆるゆるで構いません。HH以外のシンバルは常に全開で揺れるようにしておきましょう。アマチュア向けスタジオではシンバルの揺れを押さえたいのかよくこのナットを逆さにつけているのが見受けられますが、わざわざ割壊すためにショットしている状態となるので絶対に避けましょう。スタンドの脚は45度かそれよりやや広げる程度で最も安定すると思います。
■ クラッシュシンバル類 【左前上方、右手上方その他】
角度は水平〜20度程度で、一枚のみ使用の場合はスネア前方奥にセットするのがポピュラーです。高さはタム上方30〜50cmといったところですがライド同様まったくの好みです。距離も同じく楽に届くかどうかで判断して下さい。使われるスタンドもライドと同様のノーマルなものでHH以外のシンバルには通常特殊なスタンド使用はありません。複数セットする場合には、2枚目は右手側、それより増えれば残りの空き位置に自由にセットされることが多いようです。
■ フットペダル
BDフープへの取り付け金具はウイングボルトで締めるものがほとんどですが、ウイングの場所が金具近辺だったり脇に出ていたり上部だったりとモデルごとにかなりの差があります。底部にはHHスタンドと同様なスパーが装備されているのでこれもチェックしましょう。最近では非常に多彩な調整機構を持つ製品が増えてきました。最初はあまりに調整部が多すぎてとまどうと思いますが、とりあえず必須な調整項目はスプリングテンションとビーター長さです。
- スプリング
踏み込み時のテンションを調整します。通常右支柱に沿うかたちになっています。ナットで調整を行いますが、一部のモデルではレンチが必要なので注意しましょう。目安はペダルに力が加わっていないときに、やや軽くスプリングが引っかかっている程度が良いと思います。慣れてくればまったくの好みで構いませんが、これが強すぎると無駄な力を消費する上にピアニシモ時のヘッドリバウンドが制御できなくなります。
- ビーター長さ
これはヘッドへのヒット位置を決める重要な項目です。BDヘッドほぼ中央を打てるよう長さを調整します。ビーターは付け根のイモネジで固定されていてチューニングキーで緩締します。このヘッド中央部の鳴りの美味しいポイントをスウィートスポットと呼びますが、BDでも他同様、たった1〜2センチの差がサウンドに大きく影響します。ただしハードなミュートを施している場合これによるサウンド変化は緩慢です。またビーター長さをいじると重心も変わり踏み心地が変化しますが、極端な長か短にしなければプレイにさほど影響はありません。この現象を軽減するためのオモリがビーターロッドに装備されている製品もあります。
その他フットボードやビーターのアングル調整ができたりしますが、これは好みで決定すればいいでしょう。最初のうち迷った場合のキーワードは「中庸」。とりあえずは基本がなによりだと思います。またそこそこ慣れてからはいろいろと実験してみて下さい。
ペダルのビーター取り付け部はスプロケットと呼ばれ真円タイプと偏心カム(オーバル)タイプの二種があります。真円は駆動時の踏み込みに対してのビータースピードが素直な反応をしますが、カムタイプはヘッドをヒットする瞬間にむけてビーター先端の速度が徐々に上がる設計になっています。オーバルの形状にも各社製品ごとに微妙な違いがありますが奏法感への影響はごく僅かです。
私の経験ではカムタイプはパワー感はあるもののやや癖がありダイナミクスコントロールに劣る印象があります。しかしことペダルに関しては慣れの部分が大きいはずです。また技術が向上するにつれどんな機種でも大差なく踏めるようになると思います。私自身はYAMAHAの820を主に使用していますが、最も好みなのはdwですし、その日の気分によってTAMAのベルトオーバルを使ってみたりします。邪道ですがライブハウスなどでは備え付けのものをお借りする場合も多いです。それぞれの癖を読んで使ってあげれば特に問題はないでしょう。
● 演奏時のフォームについて
演奏時の姿勢について触れてみたいと思います。
模範的といわれる姿勢はやはり背筋は伸ばして脇は広げすぎず…。と、ごくあたりまえに納得できてしまう表現で説明されることが多いと思います。私はプロアマ問わず過去いろいろなドラマーのプレイを拝見させて頂きましたが、上手いと感じるドラマーの姿勢は背筋真直から猫背までまったく千差万別で無茶苦茶です。また日本人とブラックには真直系が多く、アメリカ白人には個性的でダイナミックなフォームで叩くプレイヤーが多いように感じます。アメリカ大リーグと日本プロ野球のバッティングフォームの違いにも似ていたりしてつい笑ってしまいます。つまるところ「上手けりゃなんでもよし」だと思います。
私のいままでの観察結果からいえることは、
【上手いドラマーの共通点】
- どんな姿勢でもなんとなく格好良く、美しく見えてしまう。
- 力んでいない。リラックス感がある。動きに無理が感じられない。演技している場合さえある。
- 四肢各部のショットの動きは比較的基本に準じている。
- 音ではかなり複雑高度なプレイでも見た目はごく簡単そうにこなす。
- 重心が安定しているというよりは重心を自在にコントロールしている感じ。
- セッティングが美しい。つまりプレイに合理的。
【上手くないドラマーの共通点】
- なんとなく格好悪い。見苦しい。余裕もなくぎこちない。
- 意味のない無駄な動作が多い。力んでいる。到底不可能であろうと思える動きにチャレンジしている。
- 四肢についてはショットの基礎が出来ていないと思われる。硬い。
- ごく簡単なフレーズの場合でも、見た目では凄いことをやっているように感じる。
- パーツ間移動などに意識が向きすぎて重心がコントロール出来ていない。
- セッティングが汚い。
一流プレイヤーが千差万別なことから「まずフォーム在りき」で無いことはおわかりだと思います。フォームはより高度なプレイ、つまりスピードや移動のコントロールを追求した結果の産物であって、「こういうフォームだから上手く叩ける」訳ではないはずです。四肢末端部においてはある程度のセオリーがありますが、これとて「リバウンドの制御」という大原則を実現するよう鍛錬していれば勝手に身に付いてきます。
私のフォームについては今まで日本において「良し」とされてきた「背筋延ばして脇しめる」というのからは外れていると思います。肩や頭や胴体は前後左右に揺れまくっていますし、脇は開き気味なうえ開いたり閉じたりもしています。しかしこれはモーラーみたいなことをわざとやっているという訳ではなく、いつの間にか勝手にそうなってしまったフォームです。見た目はカッコ良いか?といえば流石にその辺は疑問ですが、割とふにゃふにゃ動いている感じの時は演奏の出来もよく、調子の悪いときはあきらかに動きが硬くなっているのが自分で解ります。
フォームが悪い、即ち見た目のカッコ悪さというのは単にプレイヤーとしての未熟が表面にあらわれているだけのことでしょう。ショットにおける練習不足や練習法の間違いが原因ですから、姿勢のみに注目して矯正しても意味がありません。ある人に最も有利であろうフォームは、自分にとってもそうとは限らないのです。あえて定義するなら、良いフォームとは「その人なりになんとなく格好よく見える動き」であるといえるのではないでしょうか。
● Webmasterの私的見解
私自身のセッティングのキーワードは「見た目に美しい」と「球面上配置」です。パーツの数や種類は現場によって変わるので一定しませんが、とにかく生理的に自分で美しいと思われる配置にします。ドラム類の打面角度は自分の頭上20cm位の点を中心とした幾つかの仮想球面に対する接面を形成するように、さらにシンバルもこれに準じた状態で且つかなり高い位置にセットしています。標準からやや外れるのは、椅子遠め、SD高め、SDに対しHH低め、といったところで、シンバル角度はライド約30度、その他は平均20度程度で低位置のものほど水平に近いようにします。
結構細かいですが、何もこのセッティングでないと叩けないというわけではありません。椅子高さと距離だけは気にしますが各パーツが明後日の方向を向いていない限り、じつのところ何でもありです。ドラムなんてばちが届きさえすれば音を出せるじゃないですか。あまり深く考えすぎるとプレイに毒です。ついでに私は椅子の高さといえども気分で変えたりします。当然ながら脚のリーチは変えられないので高くすればペダルとの水平距離は近く、逆は遠くしていますが…。
HR,HMでみられるオール水平セッティングは私には美的センスの観点から馴染めません。私は2次元的表現がどうもダメで3次元的アート感がないと満足できないようです。やはりスタンド類はブーム、クルマはジウジアーロ&ピニンファリーナ、戦闘機はSu-27、分子構造はタンパク質に限ります。
つまり、私にとってのセッティングとは心理的な安心を得るための保険のようなモノです。精神安定剤といっても良いかもしれません。自分が見ただけで感動するようなセッティングにしておけばやる気も湧いてくるというものです。不安要素を極力排除することで最も大事な部分に精神集中できるよう、また完璧にしておいてミスの言い訳をセッティングの所為に出来ないようにします。ついでに楽譜も同じ意味合いから手元に置いておくことが多いです。演奏中、細部の読譜まですることはめったにないですが…。
まるで参考にならないようなことを書き並べてしまいましたが、最後にもう一言。
素晴らしい一流プレイヤーのセッティングからはそれぞれにやはり何らかの統一感が感じられるように思います。その人なりのプレイスタイルに的確に対応するための合理性が追求されているのでしょう。見た目やコンセプトは180度違っても、演奏に対する情熱ともとれる意志がそこには共通してあると思います。演奏する前から既に演奏は始まっている、そんな印象です。音楽の最も重要な要素は決まった手法や様式などの表面的な部分でないことをあらためて思い知らされてしまいます。結局すべては良いパフォーマンスをするためにある訳ですから、セッティングやフォームもこの基本を常に忘れないようにしましょう。